不滅の言葉 97年6号

忘れられない物語

商人と泥棒

 昔々、一人の金持ちの商人が3,200キロ離れた所にある首都に商用で出かけることになった。彼は5万ルピーを千ルピー紙幣50枚で持って行かなければならなかった。汽車の中で2晩と1日過ごさなければならない。一等席を予約した。ある泥棒がこの事を嗅ぎつけ、彼もまた首尾よく、一等席、それも同じ客室を予約した。泥棒は商人が毎晩50枚の千ルピー紙幣を数え、いつも同じアタッシュ・ケースにしまい、自分の横に置くのを見ていた。商人が寝入った隙を見計らって、泥棒はその大金を盗もうとしたが、ケースを開けても中は空っぽだった。だが朝になると商人はまたアタッシュ・ケースを開けいつものように紙幣を数え、夜にも一度それを繰り返すのだった。しかし商人が寝ている間に泥棒がアタッシュ・ケースを盗み、中を見てもやはり空っぽなので、泥棒はたいそう驚いた。何度やってもうまくいかないし、汽車は終点に近づいて来るし、泥棒は一駅手前で降りることにした。そして別れ際に商人にこう言った、「旦那、あっしはプロの泥棒、しかも汽車専門の泥棒でさあ。お手持ちの大金をこっそり頂戴しようと旦那と一緒に旅を続けて参りやした。あっしは毎晩旦那がお眠りになってから、そのケースから中身を抜き取ろうとしやしたが、中はいつも空っぽでさ。けど、朝になると旦那はまた同じケースから金を出して数えなさる。旦那はいつもどこに大金をお隠しになってたんですかい。きっとあっしの目をくらます魔法でも御存知なんでしょうよ」商人は答えた、「おや、金はいつもお前のベッドの下に置いていたよ。お前はちゃんとした場所を探さなかったんだよ。いつも夜お前が浴室に入った時ベッドの下に入れ、朝お前がトイレに行った時それを取り出していたのさ。私のベッドを探すよりも、自分のベッドを探せばよかったんだ。(汝自身の)内側を見よ、そうすれば見出すであろう」


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