不滅の言葉 97年5号

ホーリーマザーの福音(6) 部分

ジャイランバティ

 アーシュウィン月のマハーサプタミの日(*祭礼の第七日)、母なる神ドゥルガをお祭りする最初の日に、二人の若い信者がマザーのもとにやってきた。マハーシュタミの日(*祭礼の第八日)に、彼らはホーリーマザーの足下に蓮の花をささげた。ひとりが「マザー、どうぞ私を出家させてください」といった。もうひとりの少年もおなじ願いを申し出た。マザーはすこし微笑んで「わが子よ、時がくればそうなるでしょう。心を煩わせることはありません」とおっしゃった。信者は「マザー、私たちを出家させてください。私たちに僧衣をください」と言い張った。

 そこでマザーはいくらか真剣におっしゃった。「黄土色の僧衣を身につけたからといって、それであなたがたが何を得るというのです? それにどんな特別なことがあるというのですか? 二人とも結婚していないのでしょう? あなたがたはすでに出家僧とおなじではありませんか。他のことは時がくれば自然に起こりますよ」

 「マザー、私は聖糸も服も何もかも棄ててしまいたいのです。そしてトライランガ・スワミのように聖なる黙想に浸りたいのです」と信者はいった。マザーは微笑みながら「わが子よ、時がきたらそうなるでしょう」とおっしゃった。信者はしだいに興奮し、「マザー、いいですか、私はいますぐに服と聖糸を棄てますよ」といいながらほんとうにそうしようとしたので、マザーは慌てて「いまはおやめなさい。時がきたらそれらは自然にあなたから離れ落ちるでしょう」とおっしゃった。

 彼の子供っぽい振る舞いはつづいた。「師に訪れた神の狂気のひとしずくで、私を祝福してください。私に狂気をお与えください、マザー、あなたは私に信仰をお与えくださらないのですか? 師のヴィジョンをお与えくださらないのですか?」と彼はいった。マザーは「わが子よ、すべては時期が来れば成就するでしょう」とおっしゃった。二人の少年たちはマザーにお辞儀をして部屋を去った。

 昼がきて皆が食事の席についた。こんどはその若い信者は「このミルク粥はどうやってつくったのですか? まったくおいしくありませんね」といった。マザーは笑って「しかたがないのですよ、わが子よ、ここでは必要なだけのミルクが手に入らないのですから」とおっしゃった。そばにいたケーダルの母親が「あなたがたはみなマザーの子どもでしょう。いろんなものをたくさん持っていらっしゃいな、そうすればマザーはあなたがたに心ゆくまで食べさせてあげることが、おできになるでしょう」といった。しかしこの言葉も彼の耳には届かなかった。彼は「マザー、今日は満足しませんでした。この次にきたときは満足するまで食べたいと思います。ウドボーダンでも一度会ってくださいますか?」といった。マザーは同意なさった。

 昼まえ、シローンから一人の信者が到着した。彼はマザーの神性についての疑念をぬぐい去っていなかったので、マザーの夢を七回みるまでは会いにゆくまいと心に決めていた。ところが彼は七度彼女のヴィジョンを見たのだ。そこで彼女に敬意を表するためにジャイランバティへやってきたのだった。午後、帰るまえに彼は「マザー、おいとましなければなりません。ほかに何か私がしなければならないことがございますか?」といった。

 マザー「ええ、ありますとも、あなたはイニシエーションを受けなければなりません」

 信者「カルカッタのバグバザールでお受けしたいと思っておりますが」

 マザー「わが子よ、それは早くしておいたほうがよいでしょう。今日イニシエーションをお受けなさい」

 信者「しかしマザー、私は食事をいただいてしまいました」

 マザー「それはかまいませんよ」

 この信者はイニシエーションを受けたあと、出発した。

 朝やってきたおかしな信者の精神状態は、ジャイランバティから家に帰ったあとで悪化した。彼は師のヴィジョンを欲しがっていらだち、ホーリーマザーがそうお思いになりさえすれば、彼はシュリ・ラーマクリシュナのヴィジョンを見ることができるのに、彼女がそれを拒んでいらっしゃるのだと考えて腹を立てた。強い怒りにとらわれてジャイランバティに戻ってくると、彼は「あなたは私に師のヴィジョンを見せてくださることができないのですか?」とマザーにいった。マザーは「いいえ、あなたは彼を見るでしょう。そんなふうにいらだってはいけませんよ」とやさしくおっしゃった。彼はそれにも我慢できずに怒って、「あなたは私をだましている。あなたがくれたこの数珠は返します。もう要りません」といいながら数珠を彼女に投げ返した。マザーは「いつまでもシュリ・ラーマクリシュナの子供でありますように!」とおっしゃった。彼は即座にそこを立ち去った。

 後にその信者はほんとうに気が狂ってしまった。彼はラーマクリシュナ・ミッションのスワミたちにののしりの手紙を出し、ホーリーマザーにも同様のことをしてはばからなかった。

 ある日私はこの信者について、「彼はマントラも返しましたか? 彼は数珠を捨てましたね。人はマントラを返すことができるのですか?」とホーリーマザーにお尋ねをした。

 マザー「できるわけがありませんよ。マントラの言葉は生きているのです。ひとたびマントラを授かって、返すことができる人がいるでしょうか? いちどグルにこころ惹かれた人が、彼からのがれることができますか? 将来いつかこの人は、いまののしっている人の足もとにもどってきてひざまずくでしょう」

 信者「どうしてそのようなことが起きるのですか?」

 マザー「そんなこともあるものですよ。ひとりのグルが大勢の信者にイニシエーションを与えるのですもの。信者たちの気質はさまざまです。霊的な生活は信者の性格に応じて成就します。彼はジャイランバティで私に『マザー、私に狂気をお与えください』といいました。私は『なぜでしょう?』と返事をしました。『わが子よ、なぜ気違いにならなければならないのですか? ひどい罪を犯してもいない者が気違いになることはありません』。彼は『私の弟は師を見ました。どうぞ私にも師のヴィジョンを得させてください』といいました。私は『肉眼で師を見た人などいませんよ。でも目を閉じて見ることはできます。私たちは目を閉じて何かの姿を思い描くことができるでしょう? あなたの弟は子供ですから、きっと目を閉じて師を思い浮かべたのを、目を開けて見たと思いこんだのでしょう』といいました。私は彼に霊的な生活……修行をし、師に祈ること……をつづけるよう頼み、彼もまたいつかヴィジョンを得るに違いないと話しました。人は心のなかでは、自分がどれだけ成長し、またどれだけ神の知識と意識に到達したか知っているものです。彼は最も深い魂の奥処で、自分がどの程度神を悟ったかを知っているのです。でも、誰もこの肉体の目で神を見ることなどできはしません」

 この信者はウドボーダン・オフィスで叱られてから、ガンジス河の岸辺に住んでいた。ときどきウドボーダン・オフィスの入口の階段のところへやってきては、そこで食事をした。しばらくたってから彼はホーリーマザーに許されて彼女のもとへつれてこられた。彼女はさまざまな方法で彼をなだめようとおつとめになって、おっしゃった、「師はたびたび『私に祈りを捧げたものに死がおとずれるときには、私は彼らのところにゆかなければならないのだよ』とおっしゃったものでした。これは彼ご自身のお言葉なのですよ。あなたは私の子どもでしょう、恐れることなど何もないでしょう? どうして狂人のように振る舞わなければならないの? それは師をおとしめるだけですよ。人は信者が気違いになったというでしょう。あなたは師のお名前に傷をつけるようなことをしたいのですか? お家に帰ってほかの人たちとおなじように暮らしなさい。彼らのように食べ、彼らのように暮らすのです。死のときがきたら彼がきて、あなたを彼のところへ連れておいでになるでしょう。言ってごらんなさい、誰かこの肉体の目で彼のヴィジョンを見た者がいますか? それができたのはナレン(スワミ・ヴィヴェーカナンダ)だけです。そのことは彼がアメリカで非常に強く師を求めたときに起こりました。それからナレンは、師が彼の手をつかんでおいでになる、といつも感じるようになったのです。そのヴィジョンでさえほんの数日間つづいただけでした。さあ、お家に帰って幸せに暮らしなさい。世間の人々はなんと哀れなことでしょう! いつかラームの息子が死にました。家に帰ればすくなくともやすらかな気持ちで眠ることができるでしょう」

 この信者はホーリーマザーの慰めと指示になだめられて、ウドボーダン・オフィスで食事をしてから村へ帰っていった。彼はそこでしだいに通常の心の状態を取り戻していった。......................


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