不滅の言葉 1964年11号
人間の五重層と個人人格
木村日記
戦後、日本には人類に恥づべき罪悪行為が横行するので国民の憂愁の的となっている。この為め池田首相は数年前から人造り国造りを叫びつつあり、文部省当局は道徳教育に関して苦心しているようである。世相を浄化することは国の品位を高める為め極めて必要であるから、国民の各層は協力して世相浄化につとめてほしい。小生も国民の一人として二年前から世相浄化の方法に就いて構想を練っていたが、それが一応纏まったのでげんにその綱要を述べることとした。「人間の五重層」とは人間は(一)食物を必要とする部分(二)生気(空気)を必要とする部分(三)意(こころ)の部分(四)智慧(叡智)の部分(五)真理性の部分等の五重層で成立している。前の二つは肉体面であり、後の三つは精神面である。二つの肉体面の問題は何人も常識的に知っているから問題はないが、精神面の方はなかなか問題がある。第三の意の部分にはその中に智情意の三つが含まれているが、然し古来人間は感情の動物と言われるように、情が強く、凡てを感情で支配せんとする傾向がある。従って「智」も「意」も「情」に圧倒され、勝手な行為を敢えてするのが一般人の常であり、それによって凡ゆる矛盾が起り、その矛盾が悪行と転じて来るのである。故に感情の力を防止しそれを正道化するのが第四の智慧の部分であり、更に智慧の背景となるものが第五の真理性の部分である。この真理性は「真心・至誠心」と同一で、天地の真理に通ずるものである。何人にもこの「真理性」は本来あるが、愚連隊的人物にはそれが埋れている。この人間の五重相が立派に具現する処が人間個人の人格である。この中第五の真理性の部分が精神面の中心であって、その現われ方によって個人々格の高下が定まるのである。この真理性は天地の真理に通ずると同時に宗教的真理にも通じ、吾人を「悟り」と「解脱」へ導くものである。