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不滅の言葉　1964年８号

理性と宗教（下）

ヴィヴェーカーナンダ

　かくして我々はべーダンタの宗教が、宗教を最高次の一般化及び進化の法則に帰属せしめることによって科学の世界の要求を充足することが出来るのをみるのである。ものの説明がものそれ自身の内側から来るということはベーダンタによって更により完全に充足される。ベーダンタの神であるブラフマンは彼自身の外側に何ものも、完全に何ものも所有しない。実にこの一切のものが「彼」である。彼は此の宇宙に在す。彼は彼自身この宇宙である。「汝は男である。汝は女である。汝は青春の誇りにみちて歩む青年である。汝は足もとのおぼつかない老人である。」彼は此処にいる。彼を我々は見、感じる。波の中に我々は生き、動き、我々の存在を持つ。貴方がたはそのような理念を新約聖書の中に持っている。つまり、宇宙に内在の神、ものの本質であり心であり魂である神、という考え方である。彼はいわば彼自身を此の宇宙に顕現せしめている。貴方がたも私もみな「存在」と「知識」と「至福」のあの無限の大海の内側に住む小さな片りん、点であり、小さな水路、小さな表現である。人間と人間との、天使と人間との、人間と動物との、動物と植物との、そして植物と石との相違は、種類の相違ではない。何故なら最高の天使から最低の物質分子に至るまで凡てはあの一つの無限の海の表現にすぎず、そしてその相違は程度の相違にすぎないから。私は低次の顕現である。貴方がたはより高次の顕現であるかも知れない。しかし両方とも構成要素は同じである。貴方がたも私も同じ水路の出口である。それは神である。そのようなものとして貴方がたの本性は神であり、私の本性も神である。貴方がたは純潔の天使かも知れない。そして私は最も邪悪な悪魔かも知れない。それにも拘わらず私の生得権は「存在」と「知識」と「至福」のあの無限の大海である。貴方がたの生得権もそうである。貴方がたは今日貴方がた御自身をより多く顕現された。待たれよ、私は私自身を更により多く顕現するであろう。何故なら私はそのすべてを私自身のうちに所有しているから、外部的な説明は何ものも求められないし如何なるものも必要とされない、此の全宇宙の総計は「神御自身」である。では、神は物質であるか？否、決してそうではないし何故なら物質とは五感によって知覚された神であるから。知性によって知覚された神は心である。そして霊がみるとき、神は霊として見られる。神は物質ではない。併し物質の中に実在するものは如何なるものも神である。此の椅子の中に実在するものは如何なるものも神である、何故なら椅子を作るには二つのものが必要である。私の五感が認めた何ものかが外部にあった。そして私の心が他の何ものかをそれに附加した。そして比等二つのものの組合せが此の椅子である。五感及び知性から独立して永遠に存在していたものが神御自身であった。神の上に、五感は椅子を、テーブルを、部屋を太陽を、星を、そして他のすべてのものを描いている。では、どうして我々はみな此の同じ椅子を見、同じように比等さまざまなものを神の上に、此の「存在」と「知識」と「至福」の上に描いているのであるか？誰もが同じように描く必要はないのだ。しかし同じように描くものは同じ存在の段階にいるもの達である、それ故に彼等は、お互い同志を見ると同様に、お互いの絵をも見ることができるのである、貴方がたと私の間には、同じ姿に神を描かないもの達が数百万いるかも知れない。しかし、彼等も彼等の絵も、我々は見ないのである。
　一方、貴方がたはみな御存知のように、現代科学の研究は実在するものはより繊細なものであり、粗雑なものは単なる外観にすぎないということを証明する方向にますます傾いている。それはとに角、我々はもし宗教理論のどれかが現代理性のテストに耐えぬくことが出来るとすれば、それはアドヴァイタ（不二一元論）であるということを見て来た。何故なら不二一元論は現代理性の二つの要請を充足するからである。それは人格さえ超越した最高度の帰納あらゆる存在を包含する帰納である。人格神に終る帰納は普遍的なものではあり得ない。何故なら第一に人格神を想定するには我々は彼を慈悲そのもの、善そのものであると云わねばならぬから。此の世界は或るものは善であり、或るものは悪である一つの混合物である。我々が自分の好きな属性だけを取ってそれを人格神に帰納するのだ！すると貴方がたは人格神はこれこれである、と言うと同時に、人格神はこれこれではない、とも言わなければならない。そして貴方がたはいつも人格神の理念は同時に人格魔の理念を伴わねばならぬということを見いだすであろう。このようにして我々は人格神の概念は真実の一般化ではなく、我々の帰納はそれを超えて非人格神に達しなければならぬということを明確に理解する。非人格神の中に、此の宇宙はそのあらゆる喜びや不幸を携えて存在する。何故なら宇宙に存在する一切のものは此の非人格神から来たからである。我々が藩その他の性質ありとする彼（非人格神）は如何なる種類の神であり得るか？この思想は一善も悪も同じものの異った面、或いは顕現であるとなすものである、善と悪は二つのものであるという考え方は初めから間違っており、それは我々の住む此の世界で多くの不幸の原因となってきた。正と不正は二つの分離したもの、切断されそしてひぼしにされた、お互いに独立したもの、善と悪は二つの永遠に分離し得るそして分離された別々のもの、という考え方は間違っている。私は、常に善であるものとか、常に悪であるものを私に示すことの出来る人がいたら、是非お目にかかりたい。まるでこの人生に起る事件の或るものは美であり純粋に善であり、或るものは悪であり完全に悪である、と厳粛に定義する事ができるかのように。今日善であるものも、明日は悪であるかも知れない。今日悪であるものも、明日は善であるかも知れない。私にとって善であるものが、貴方がたにとっては悪であるかも知れない。結論として云えることは、他のすべてのものと同じように、善悪にも一つの進化があるということである。或るものの進化の過程の中で、我々はそれを一つの段階に於ては善と呼び、他の段階においては悪と呼ぶ。私の友人を殺害する嵐を、私は悪と呼ぶ。しかし、それは大気中の桿状菌を絶滅することによって幾十万という人々の生命を救助したかも知れない。彼等はそれを善と呼ぶが、私はそれを悪と呼ぶ。この様に善も悪も共に相対の世界、現象界に属するものである。我々の提案する非人格神は相対的な神ではない。それ故、それを善であるとか、悪であるとかいうことはできない。それは善でもなく悪でもなく、善悪を超越した或るものである。然しながら、善は悪よりも非人格神により近い顕現である。
　このような非人格的存在、非人格神を認める効果は何であるか？我々は何を獲得するであろうか？宗教は人生の中の一要素として、我々の慰安者として、我々の助力者として役立つであろうか？或る存在に助力を乞おうと欲する人間的真情の願望はどうなるであろうか？それはすべて存続するであろう。人格神は存続するであろう。しかもよりよい基礎の上に立って存続するであろう。人格神は非人格神によって強力にされたのである。我々は非人格神なくして人格神は存続し得ないことを見てきた。もし貴方がたが、此の宇宙から完全に離れた或る存在（神）がいて、彼が単にその意志によって此の宇宙を無から創造した、と云おうと欲するなら、それは証明することは出来ない。そのような事態はあり得ない。しかしもし我々が非人格神の理念を理解するなら、人格神の理念も亦そこに存続することが出来る。此の宇宙は、その種々相において、同一の非人格神のさまざまな解読にほかならない。我々がそれを五感で読みとる時、我々はそれを物質の世界と呼ぶ。もし五つ以上の感覚を所有するものがいれば、彼はそれを何か他のものとして読みとるであろう。もし我々の一人が電気的な感覚を得れば、彼は此の宇宙を更に何か他のものとして認めるであろう。この唯一者にはさまざまな形態があり、我々の持つ様々の世界観はすべてこの唯一者のさまざまな読み取り方のちがいにほかならない。そして、人格神は人間の知性によって達し得る非人格神の最高の解読である。かくして人格神は、此の椅子が真実であるように、此の世界が真実であるように、真実である。しかしそれ以上のものではない。それは絶対的な真実ではない。換言するなら、人格神はまさに非人格神そのものであるから実在であるが、それは私が一個の人間として、実在者であると同時に非実在であるのと同じ意味である。私が貴方がたがみる通りの私であるというのは真実ではない。それは確かである。私は貴方がたが思い込んで居られる通りのものではない。貴方がたはそのことについて貴方がたの理性を納得させることが出来よう。何故なら、光及びさまざまの振動、または大気の状況、及び私の内部のあらゆる種類の運動が、貴方がたに私を、私のようなものとして見せることに役立ったのである。もしこれらの条件のどれかが変化すれば、私も変化する。貴方がたは同じ人間の写真を異った光の条件のもとで撮ることに依りそれを納得することが出来よう。かくして私は貴方がたの五感との関係に於いて現われているところのものである。しかし、これらすべての事実に拘わらず、そこには決して変化することのない或るものがあって、これらすべてはそれの異れる存在状態である。非人格的な私というものがあって、数千の私はそれの様々の人格である。私は子供であった。私は若かった。私は年をとっている。私の人生の日々において、私の肉体と思想は変化している。しかし、これらすべての変化にも拘わらず、それらすべての変化の総計は一定不変の質量を構成している一つの集団である。それが非人格的な私であり、これらすべての変化は、いわばその非人格的な私の構成部分であるし同時に、此の宇宙の総計は不動であることを我々は知っているし併し、この宇宙に属するものはすべて運動から構成されている、すべてのものは不断の流動状態にあり、すべてのものは変化し、動いている。同時に我々は宇宙全体として不動であることを知っている。何故なら運動は相対的な言葉であるから。私は不動である椅子との関係において動いている。運動を起すには少なくとも二つのものが必要である。もし此の全宇宙を単一体として見るなら、運動というものは存在しない。何ものとの関係において、それは運動すべきであるか？かくして絶対的なものは不変であり、不動であり、そしてすべての運動と変化は現象の世界、限定された世界にのみ存在する。全体は非人格的な毛のであり、此の非人格的なものの中に、最低次の原子から我々が祈願し膝まづくところの神、人格神、此の宇宙の支配者に至るまでの、さまざまな人格が存在する。このような人格神は合理的に充分立証することができる。そのような人格神は、非人格神の最高の顕現として説明し得る。貴方がたも私も非常に低次の顕現である。人格、神は我々の心に考え得る最高の顕現である。貴方がたも私もそのような人格神にはなり得ない。ベーダンタが貴方がたも私も神であると云うとき、それは人格神を意味するものではない。例を挙げよう。粘土の塊りから巨大な象が造りだされる。そしてその同じ粘土から、小さな粘土のネズミが造りだされる。この粘土のネズミは、いつかその粘土の象になり得るだろうか？しかしこの両者を水に投げ入れれば、それは粘土になる。そして粘土としては両者は共に一つである。しかし、ネズミと象としては、両者の間に永遠の開きがある。無限なるもの、非人格的なものは、この例に挙げた粘土のようなものである。我々と此の宇宙の支配者は一つである。しかし、顕現された存在、人間としては、我々は彼（神）の奴隷である。彼の崇拝者である。かくして我々は人格神は存続することを見るのである。此の相対的世界の、他のすべてのものは存続するのである。宗教はより確かな根拠の上に確立されるのである。それ故我々は人格神を知るためには、まず非人格神を知ることが必要である。
　我々がこれまで見て来たように、理性の法則は、個別的なものは一般的なものを通してのみ知られる、と宣言する。そのように人間から神に至るまでの、これらすべての個別的なものは、非人格的存在、即ち最高次の普遍概念を通してのみ知られるのである。祈祷は存続するであろう。ただ、それはより確かな意味を有するようになるであろう。しかし、我々の心に潜むあらゆる種類のくだらない欲望にただ言葉を与えるだけにすぎない凡ての無意味な祈祷の概念��低次の祈祷は恐らく放棄されなければならないであろう。凡てのまともな宗教は絶対神への祈祷を決して許さない。個別の神々への祈祷を許している。これは全く当然のことである。ローマンカトリック教の信者達は聖者達へ祈祷する。それは全く良いことである。しかし神へ祈祷することは無意味である。神にむかって、空気をお与え下さい、雨をお降らせ下さい、果樹園に果実を実らせて下さい、などと祈ることは不自然である。しかしながら我々と同じように小さな存在である聖者達は我々を助けるかも知れない。しかし、宇宙の支配者に我々の小さなあらゆる欲望を喋りながら祈ること、そして子供の時の言い草のように「おお主よ、私は頭痛がします、癒して下さい」などと云うことは、滑稽である。今日までに此の世で死んだものは無数にいる。彼等はすべて此処にいる。彼等は個別の神々となり、または天使となっている。彼等をして貴方がたを救助せしめよ。然し、神はそれは出来ない。神に対しては我々はもっと高次なものを求めなければならない。ガンジス河の岸辺に休みながら、僅かの水を求めて井戸を掘るものはまことに愚かである。ダイヤ鉱山の近くに住みながら、水晶の切れはしを求めて地を掘ることはまことに愚かである、そしてもし我々がつまらぬ俗事を求めて「無限の慈悲の父」「無限の愛の父」の前に膝まづくなら、我々はほんとうに愚かものであろう。それ故、「彼」に向かっては光を、力を、愛を求めよう。しかし、我々の樫に弱々しさや奴隷的な依頼心のあるかぎり、これらの小さな祈祷や、人格神崇拝の概念は存続する、しかし高度に進歩したものは、そのような小さな救いを求めない。彼等は自分自身のために、ものを求めるということを、欲するということを、殆んど忘れてしまっている。彼等の裡にある支配的な理念は��「私」ではなく「汝」であり、「私の兄弟」である、これらが非人格神を崇拝する資格である、非人格神の崇拝とは何であるか？そこには「おお主よ、私は下らないものです。私をお憐み下さい」というような奴隷的根性はない。貴方がたは英語に訳されたペルシャ語の古い詩を御存知である。「私は愛する者に会いにやって来た。戸はとざされていた。戸を叩くと中から声がした。『汝は誰か？』『私は斯く斯くしかじかの者である』戸は開かれなかった。二度目に来て戸を叩くと同じ質問が繰返えされた。私は同じ答えをした。戸は開かれなかった。私は三度やって来た。中から同じ質問がやって来た。私は答えた。『愛するものよ、私は汝である』と。戸は開かれた。」非人格神の崇拝は真理を通して行われる、真理とは何か？私は彼（神）であるということである、私は汝ではないというとき、それは真理ではない、私は貴方がたと分離されていると云うとき、それは虚言である。恐るべき虚言である。私は此の宇宙と一体であり、一体となって生まれたのである。私が宇宙と一体であるということは、私の五感にとって自明の理である。私は私を包囲する大気と一体である。熱と一体である。光と一体である。「この宇宙」と呼ばれて（物質の）宇宙と取り違えられている「全宇宙的実在者」と永遠に一体である。なぜならそれは「彼」であり、他の何ものでもない。凡ゆるハートの中で「アイ　アム」「我はある」と宣言するそのハートの永遠の主体者��死せざる者、常に覚めて眠らざる者、その栄光は亡びることなく、その力は朽ちることなき不滅なる者��であるから。私は「それ」と一つなのである。
　これが非人格神崇拝のすべてである。その結果は何であるか？人間の全生活は変わるであろう。力、力こそ我々が此の世で非常に欲するものである。の我々が罪と呼び、悲しみと呼ぶものはすべて一つ原因から来ており、その原因は我々の弱さである。弱さは無知をもたらし、無知が不幸をもたらす。非人格神崇拝は我々を強者にするであろう。そのとき不幸は一笑に附されるであろう、そのとき悪漢の暴力は微笑をもって迎えられるであろう、そして凶暴なトラは、私自身のうちに内在する「自我」がそのトラの性質の背後に、内在することを、示すであろう。以上が非人格神崇拝の結果である。「主」と一体になった魂は強い。他に強いものは居ない。貴方がたは、貴方がたの聖者の中で、ナザレのイエスのあの力、裏切者を一笑に附し、そして彼を殺害しようとしたものを祝福したあの広大無辺の力の原因は、何であったと思われるか？それは「私と私の父は一体である」ということであった。それは「父よ、丁度私とあなたが一体であるように、彼等すべてをも私と一体にならしめ給え」という祈りであった。これが非人格神の崇拝である。宇宙と一体なれ彼（神）と一体なれ。そして此の非人格神は如何なる証明、如何なる証拠をも必要としない。彼は我々の感覚よりも我々に近い。我々の思想よりも我々に近い。我々が見たり考えたりするのは、彼の中で彼を通してするのである。
　何かを見るとき、私はまず彼を見なければならない。この壁を見るには、私はまず彼を見る。そしてそれから壁を見る。何故なら彼は永遠の実体であるから。誰が誰を見ているのであるか？彼はここに、我々の心の奥底にいる。肉体と心は変化する。不幸、幸福、善、そして悪が現われては消え去る。年月は流れる。生命は現われ、消え去る、しかし、彼は死なない。同じ声「我はあり」「我はあり」は永遠不変である。彼のうちに、そして彼を通して、我々はすべてを知る。彼のうちに、そして彼を通して、我々はすべてを見る、彼のうちに、そして彼を通して、我々は感じ、考え、生き、そして存在する。そして我々が小さな限定された「私」として間違えているその「私」は、私の「私」であるばかりでなく、貴方がたの「私」であり、すべてのものの、動物の、天使の、卑賎なる最低なものの「私」である。此の「我はあり」は、聖者においても人殺しにおいても同じであり、貧者においても富者においても同じであり、女性においても男性においても同じであり、動物においても人間においても同じである、最低次のアミーバーから最高次の天使に至るまで、彼はすべてのものの中に在し、そして「我は『彼』なり、我は『彼』なり」と永遠に宣言する。我々がそこに永遠に在すその声を理解したとき、我々が此の課業を学んだとき、全宇宙はその秘密を現わすであろう。自然はその秘密を我々に明らかにするであろう。それ以上知るべきものは何も残らない。かくして我々はあらゆる宗教が求めている真理を、此の物質科学の凡ての知識は二義的なものにすぎないという真理を、見いだすのである。これが我々を此の宇宙の普遍的な神と一体ならしめる真実なる唯一の知識である。
（山本穆訳）
--全集第一巻三六六頁--

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