NVK lecture siddha sr1989

シュリ・ラーマクリシュナ生誕祝賀会の講話

一九八九年三月十九日

シュリ・ラーマクリシュナの神性

　あるとき、予言者マホメットに一人の弟子が尋ねました、「何が聖者のしるしですか」と。予言者は答えました、「彼の生活と人格の中に神の臨在を示しているのが真の聖者である」と。この言葉を正しいと認めて、私たちは、神を隠して自分の重要さを表に出すのは偽せ聖者である、と言うことができます。この予言者の言葉はシュリ・ラーマクリシュナにあてはめることのできる意味深い試金石です。

　「福音」と「大師ラーマクリシュナ」の中に、シュリ・ラーマクリシュナは彼自身のことを決して「私」とはおっしゃらなかった、と記されています。彼はご自分のことを「この場所」とおっしゃるのでした。この個人を意味しない言い方で、彼は自らを示しておられました。幼年時代からついに世を去られるに至るまで、彼の全生涯は神意識の不断の流れでした。彼は他の何ものも知らず、何ものについても語らず、何ものに対しても、魅力を感じられませんでした。共に神について語ることのできる人、と見ると、遠路をいとわず、苦労をしても、尋ねて行かれました。

　ケシャブ・チャンドラ・センが亡くなったとき、彼の悲しみは、カルカッタで神について自由に語ることのできる人を失った、ということでした。彼にとって、彼自身の人格によって神を隠すことなどは不可能でした。彼が最後の病床にあられたとき、深く悲しんだある信者が、母なる神に治癒をおねがいして下さい、と懇願しました。しかし彼は、自分の全心全霊は母なる神に捧げてあるのだから、心を身体に集中することはできないのだ、とおっしゃいました。

　またあるとき、ある信者が、自分はいつでも超越状態に入ることができるのだけれど、人々の福祉に対する同情のゆえに、個人格を保ち続けているのだ、と言いました。すると、彼は厳しくそれを戒め、それをしておられるのは、お前ではなくて母なる神おん自らである、と教えられました。

　あるとき、シュリ・ラーマクリシュナは、カルカッタのブラ �モ・サマージの、ある宗教儀式に参列するよう、招かれました。儀式のあとで夕食が出されることになっていました。主人役たちは何か他のことに夢中になっており、シュリ・ラーマクリシュナとそのグループには全く注意を払いませんでした。師がこのように無視されておられるのを見て、スワミ・ブラマーナンダジーその他は大層心を痛めました。彼らは、すぐにドッキネッショルに帰ろうと言い出しました。しかしシュリ・ラーマクリシュナは落ち着いて少しもさわがず、待つように彼らを説得されました。

　ついに、苦心の末、若干の食物が手に入りましたが、最後まで、師とその随行者たちにふさわしい注意は払われませんでした。給仕人がいかがわしい人たちだったので、シュリ・ラーマクリシュナ出されたものを食べることがおできになりませんでした。馬車賃を支払うときになると、主人役たちはブツブツ言い、足りるだけの全額を出しませんでした。

　シュリ・ラーマクリシュナはこれらの無礼を快活な気分で赦されたばかりでなく、招待者を祝福もなさいました。師がこの落度を見逃して一家の福祉を保証されたのは彼の無限のお慈悲のなせるところでした。サードゥが訪れたのに、食事を振舞わないで立ち去ると、その一家は不幸に見舞われるところだったのです。シュリ・ラーマクリシュナは、彼自身の重要性だとか、客として当然要求することのできる尊敬のことなどはまったく考えられず、彼の心はただ招かれた家の福祉のことでいっぱいだったのでした。

　このように私たちは、彼がその全生涯、決して自己を主張するようなことはされなかたのを見ます。彼は決して、神がそこに生きておられるのを忘れることはできなかったのでした。彼はこうして、神性の条件を完全に満たしておられます。シュリ・ラーマクリシュナへの賛辞のなかで、マハトマ・ガンディは次のように書いています。「ラーマクリシュナ・パラマハンサの生涯の物語は、宗教を地で行く物語である。彼の生涯は、われわれをして、神とじかに対面することを得しめる。‥‥ラーマクリシュナは、神性の生きたげ権化であった。彼の言葉は学者の言葉ではなく、それらは生命という書物のページである。それらは彼自らの経験の啓示である」と。マハトマ・ガンディは、シュリ・ラーマクリシュナの弟子でも信奉者でもあったわけでもありません。ですから、彼の見解は客観的かつ公平なものとして、信頼することができるます。

アヴァターラの使命

　彼の親しい信者たちは、彼をアヴァターラ、すなわち神の化身と見ていました。バイラヴィ・ブラーフマニは、聖典に照らして、この事実を、学者たちの会議の席で立証しました。シュリ・ラーマクリシュナみずからは世を去られる数日前に、この真理をスワミ・ヴィヴェーカーナンダに明かされました。スワミ・ヴィヴェーカーナンダは、一つの賛歌のなかで、彼はすべてのアヴァターラたちの中の最高の存在であった、と記しています。

　アヴァターラは、善人たちを護り、悪人たちを罰し、正義を確立します。それは特に、信者の霊的求道心への加護です。しばしば、信者は懐疑といううす暗がりの中にほうり込まれ、確信を熱望します。そのようなときに、神は自らを示して、その信者を護り、救って下さるのです。真の加護というのは、信仰の危機というべき瞬間に与えられる啓示であります。

　シュリ・ラーマクリシュナの場合には、この加護のはたらきは印象的な形で実現しています。それを指示する保証がないために信仰がゆらいでいた求道者たちがみな、彼の中に啓示を得ました。チヌ・シャンカリという、カマルプクルの年取った求道者が彼を見てその渇仰心を満足させた話が記録に残っています。彼は少年シュリ・ラーマクリシュナを礼拝し、泣いて喜びました。彼の一つの悲しみは、この化身の将来の栄光を見るまでは生きられない、ということでした。ゴパールのお母さんの場合はもっと印象的です。彼女はゴパールの信仰者でした。この老婦人は、シュリ・ラーマクリシュナの中にゴパールの姿を見ました。

　身近な信者たちには、彼は希望をもたらし、疑いを除き、ハートに信仰をしみ込ませました。単に、神の意識をめざめさせただけでなく、彼みずからの人格の中に、求道者たちが憧れている至高実在を示すこともされました。

グルたちとの関係

　シュリ・ラーマクリシュナと彼のグルたちとの関係を理解することは必要です。母なる神のヴィジョンを得たいという彼の切望が極限に達したとき、彼女自らが、彼に御姿を示されたのでした。彼女の存在の直接の証拠が得られないというので、彼は危うくみずからの生命を絶たれるところだったのです。

　バイラヴィ・ブラーフマニが彼のところに来たのは大分後になってからのことでした。彼女は、彼を教え導くことを、母カーリから委託されたのでした。行者ブラーフマニは彼に、タントラの道と信仰の道の正規の修行をさせました。彼女の指導のもとにこれらの修行を実践されたことにはどういう意味があったのでしょうか。実質的には、それは、新しい方法を通じて神を悟る、ということでした。それはまた同時に、これら伝統的な修行法も効果のあるものだ、ということの証明でもあったのです。

　トータープリのもとでの修行の場合にも、同じことが起こりました。それは彼に、非二元の悟りを得させました。この場合にもまた、シュリ・ラーマクリシュナの経験は、アドワイタ・ヴェーダンタの再確認でした。どちらの場合にも、それは結局、すでに母の実在を十分に悟っておられたシュリ・ラーマクリシュナがこれらの異なる道の妥当性を確認された、ということでした。

　バイラヴィ・ブラーフマニはシュリ・ラーマクリシュナの生涯の中で重要な役を果たしました。彼女は、シュリ・ラーマクリシュナがアヴァターラであられることを保証しました。彼女がシュリ・ラーマクリシュナに神を示したのではなくて、彼女が彼の内に、探し求めていた神を見いだした、と見えます。彼女の自身の修行の努力は、シュリ・ラーマクリシュナと交わってはじめて、最高境地に到達しました。彼女がこの弟子のもとを去ったときには、来たときより高い境地にあったのでした。

　トータープリのアドワイタ哲学の概念は、彼の弟子によって大きな変化をこうむりました。母カーリが、人格神の存在を認めないアドワイタ哲学の修行の実践を是認されたのです。事実、母カーリが、シュリ・ラーマクリシュナにもう一つの霊的経験をさせるために、トータープリをドッキネッショルにつれて来られたのでした。トータープリがシュリ・ラーマクリシュナのもとを去ったときには、彼は人格神礼拝の必要を悟っていました。彼は母カーリを宇宙の母と認めていました。

　このようにして、シュリ・ラーマクリシュナは、彼が二人もグルたちから受け、学ばれた以上のものを彼らに与えられたのです。これは、世界の宗教史上比類のないことです。

　彼の、これら二つの修行の実践は、母なる神の実在を証明するためではありませんでした。これらの修行法の妥当性を証明するためでした。彼は他の二人の師についてキリスト教と回教の修行法を実践し、これらを通じて同一の神の悟りに到達されました。彼の悟りは、これら二つの道に、ゆるぎない権威を与えました。

　霊性の修行と悟りとについて、シュリ・ラーマクリシュナは次のように言っておられます、「私はヒンドゥイズム、イスラーム、およびキリスト教、すべての宗教を一度は実践しなければならなかった。そしてまた、シャクティ派、ヴィシュヌ派、ヴェーダーンタおよびその他、ヒンドゥイズムの中のさまざまの宗派の修行もした。そして、すべての宗教が目標として進みつつあるのは、同一の神である、ということが分かった。彼らはただ異なった道を通ってやって来るだけである」

　「私は、すべての人が宗教の名で争っているのを見る。ヒンドゥたち、回教徒たち、ブラフモたち、シャクティ派たち、ヴィシュヌ派たち、シヴァ派たち、みなが互いに争っている。彼らは、クリシュナと呼ばれておいでのお方がシヴァとも呼ばれておいでになるのだ、ということを、彼ご自身がアディヤーシャクティつまり根本エネルギーであられるのだ、イエス、またはアラーであられるのだ、ということを、決して考えないのだ。‥‥ひとりのラーマが千の名を持っておいでになるのだ」

お告げと教え

　シュリ・ラーマクリシュナは、神を悟ることが宗教の本質である、と指摘して、倦むことを知りません。それが、人間としての存在の終点であり、目標であるのです。すべての宗教儀式、論議、および説教は、悟りが始まるとおのずから止むでありましょう。すべての音や怒りやさわぎはそのとき沈黙に変わります。このことは、多くの説明によって強調されています。

　ハチは、蜜を吸い出す前には花のまわりをブンブンとびまわります。蜜を吸いはじめたら完全に静かになります。水差しに水を入れるときには音がするが、それがいっぱいになったら音はしません。バターを火にのせると水分がなくなるまでジュージュー音を立てますが、純粋なギーは決して音は立てません。

　彼の重要な霊的指示の一つの中で、シュリ・ラーマクリシュナは言っておられます、「あなた自身を母なる神の御手の中に置け。あなたのために、彼女が何もかもして下さるだろう。彼女があなたに、ヴィヴェーカ（識別）も、ヴァイラーギヤ（離欲）も、ジュニャーニャ（知識）も下さるだろう。あなたはただ、真剣に、情熱をこめて、彼女を求めて叫べばよいのだ。彼女は必ず来て下さる」

　彼は、このことを説明するのに身近な例をひいておられます。子供がおもちゃで夢中になって遊んでいる間は、母親は炊事や家の中の掃除などの家事に忙しく働いている。しかしおもちゃに飽きると、子供はそれをほうり出し、母親を求めて大声で泣く。すると母親は仕事をすてて子供のところに走ってゆき、彼を抱き上げてやる。シュリ・ラーマクリシュナは、宗教のこの簡単でしかも不可欠の真理を、説法と実例との両方で教えられました。

　疑いという問題について、興味深い会話が、シュリ・ラーマクリシュナと、彼の偉大な在家の弟子の一人であるラーマチャンドラ・ダッタとの間に交わされました。最初は、ラームチャンドラ・ダッタは不可知論者的傾向を持っており、ある日、正直に師に、神はほんとうに存在しておられるのですか、と尋ねました。シュリ・ラーマクリシュナは、「おられるとも」と答えられました。

　おそらく、ラームチャンドラの次の質問を予期しておられたのでしょう。彼は続けてこうおっしゃいました、「お前、昼間は星を見ないだろう。それだからと言って、空に星はない、というわけではない」と。彼に続けて、「ミルクにはバターが含まれている。だが、ただ見ただけでそれの分かる人がいるか。バターをとるためには、静かなところでミルクを撹拌しなければならない。それと同じように、ただ悟りたいと思っただけで神を悟るものではない。修行が必要である」

　シュリ・ラーマクリシュナは更に加えてこうおっしゃいました、「信仰ひとつが成功の鍵である。‥‥

　「お前が東に向かって十歩歩けば、それだけ西からは遠ざかる」　シュリ・ラーマクリシュナはここで、信仰が深まれば、その分だけ疑いは減る、ということを言っておられるのです。私たち大部分の者の悩みは、私たちの心はサル踊りのようなことをする、ということです。信仰に向かって数歩進んだかと思うと、たちまち疑惑に向かってあとずさりするのです。この信仰と疑惑との間の心のゆれは、霊性の修行によって克服することができます。

　ラームチャンドラはシュリ・ラーマクリシュナと議論してこの問題を更に追求しようとしました、「しかし、人は明白な証拠を持たなければなりません」と。シュリ・ラーマクリシュナは微笑しておっしゃいました、「チフス患者は何ガロンもの水と山ほどのご飯をほしがる。でも医者は彼の嘆願には耳を傾けない」と。ここでシュリ・ラーマクリシュナは、チフス患者は辛抱して薬を飲まなければならない。そうすれば彼の精神錯乱はなおるだろう。同様に、心の病であるところの「疑惑」という精神錯乱を克服するには、人は辛抱して霊性の修行を実践しなければならない、と言っておられるのです。

　私たちは信仰を持っていない、というわけではありません。持っています。そうでなければ、神を愛することも霊的進歩を欲することもしないでしょう。しかし私たちは、そのささやかな信仰を強化しなければならないのです。シュリ・ラーマクリシュナはこう言っておられます、「心はミルクのようなものだ。それは世間という水にまじると薄くなり、弱くなる。しかしもし、心というミルクがまず静かな涼しい場所で撹拌され、バターが抽出されるなら、それは世間という水にまじることはなく、そのまま、その表面に浮かんでいるだろう」と。

　信仰の場合もこれと同じです。私たちはそれを強くし、堅固にして、動揺しないようにしなければなりません。そうすれば、世俗的な思いから来る疑いや、世間の事物の追求だけに没頭している人々の反対意見で薄められ、弱められるようなことはないでしょう。

シュリ・ラーマクリシュナの無限の愛

　シュリ・ラーマクリシュナは愛の権化であった、と、スワミ・ヴィヴェーカーナンダは言いました。人々への深い慈悲心から、彼は彼らの卑しさを取り除き、霊性のもっと高いレベルにまで引き上げられました。スワミ・ヴィヴェーカーナンダは、彼をシュリ・ラーマクリシュナに縛りつけたのは、シュリ・ラーマクリシュナの彼に対する愛であった、と言いました。淨らかさ、放棄、非利己性および神意識は、シュリ・ラーマクリシュナの人格の内部では最高度に達していました。それでも尚、彼の神的な性格の中で最も際だっていたの特徴は、彼の人類への限りない愛でした。

　愛は、何よりも必要なものとして、愛する者との交流を熱望します。信者の近くに行きたい、というのはシュリ・ラーマクリシュナの心中の強烈な衝動でした。人々の霊的生活を導きたい、という莫大な情熱を持っておられました。シュリ・ラーマクリシュナの、彼の霊性の知識を信者とわかち合いたいという強い願望は彼の愛の証拠です。ときどき、ドッキネッショルの寺院の境内に鐘とホラ貝の音がこだまするころ、苦悩に身をよじらせて、来るはずの信者たちに声を限りに呼びかけられるのでした。

　家の屋根の上にたち、彼は、「おいでよ、私の子供たち、おお、お前たち、どこにいるのか。私はお前たちなしには到底生きて行けないのだ」と呼びかけられました。人々を向上させようという彼の願いの強さ、縛られた魂たちへの彼の同情は、今日でも、彼の伝記を読む私たちの心をゆさぶります。

　若いころに彼を苦しめた、神のヴィジョンへの情熱は、後には信者たちへの燃えるような愛にかわりました。世俗の愛でこれに及ぶものはありません。神への愛と人々への配慮とが肩を並べていました。彼の愛には限りがなく、また差別がなく、そして報いに対するいささかの期待もありませんでした。彼の偉大な霊の息子たちへの愛は、容易に理解することができます。それと同じ程度の愛が弱い人々、悪い、不純な人々、ふみつけられた人々にも与えられたのでした。

　あるとき、北部カルカッタで何者かが、あるならず者を雇い、若い人たちに神のことと宗教を語ろうとしてやってこられるシュリ・ラーマクリシュナに暴行を加えさせようとしました。悪漢の意図を知っておられて、信者の家から出てこられると、彼はその男に近づく、心のままに自分をなぐってくれ、とおっしゃいました。このならず者は口を開くこともできず、やがて霊的変容が彼の上に現われました。彼は教えを受けようとして、たびたびドッキネッショルに来るようになりました。ギリシュバブーのことはよく知られています。彼は、犯したことのない罪はない、と告白しました。シュリ・ラーマクリシュナは、ひとえに彼の愛と慈悲の力で、彼を救われたのでした。

　シュリ・ラーマクリシュナは、のどの病の激しい苦痛にもかかわらず、最後の日まで信者たちに奉仕されました。癌から来る痛みに静かに耐えて、ひたすら信者の霊性をめざめさせることに努められた姿は想像をこえたものでした。彼はＭにおっしゃいました、「このからだがもう少し生きのびることを許されるのだったら、もっと大勢の人々がめざめるはずなのだけれど‥‥」

　サンスクリットの賛歌の中に、スワミ・ヴィヴェーカーナンダは書いています、「シュリ・ラーマクリシュナの愛の流れは、おさえることのできない力で、アウトカーストのところまでも流れた。彼は不断に、世に善を与えることのみに専念しておれれた。彼は超人であられたのだが」

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