NVK lecture siddha ky19851215

カルマ・ヨーガの講話

一九八五年十二月十五日

　心

　心は、あらゆる人間の重要な器官です。人の幸福と不幸、知識と無知、強さと弱さ、自由と束縛は、主として心の状態に依存するものです。生命の発達は実は心の発達を意味するのです。人間を他のすべての動物たちの優位にたたしめているのは心の優秀性です。

　心は、知識には不可欠の道具です。また知識の貯蔵庫でもあります。われわれが知りたいと思うものはことごとく心によって知らなければなりません。より多く、心が知識の対象に集中すれば集中するほど、われわれの知識は深くなります。われわれは心によって、認識し判断します。肉体の器官は、心を通じてのみはたらきます。われわれの手は、心が加わらなければ、働くことも、絵を描くことも字を書くことも、料理することもできません。われわれは、心が不安定であるときには働くことができません。心が平静でなければ、秩序ある仕事はできないからです。

　心は感覚対象のように目に見えるものではありません。それでもわれわれはみな、それの存在を意識しています。われわれは、「私は放心状態でした。」とか、「私の心はいま、喜びに満ちています。」とか、「私の心は瞑想中さまよい歩きます。」等々というような言葉を口にします。ヴェーダの哲学者たちによれば、心は、肉体とも、知る自己とも異なるものです。それはこれら二つの中間にあるものです。

　心は物質です。しかしそれは、最も精妙な、最も純粋なタイプのものから出来ています。それは幽体（スクシュマ・シャリラ）の主要な要素です。心は、粗大な肉体や、知覚および活動の器官や、活力とはちがいます。それはアハンカラつまりエゴとはちがいます。心はアートマンの輝きに浸透されると、意識を持つのです。ちょうどガラス板が太陽の光を通す力を持つように、心も意識を伝導する力をもっているのです。しかし、意識はアートマンのみに属するものであります。

　心はさまざまにはたらきます。知る、思う、意志する、感じる、推理する、疑う、決定する、判定する、記憶する、喜ぶ、悲しむ、創造する、恐れる、嫌う、好く、等々、さまざまの力をもっています。これらは、心の変化と呼ばれます。心のこのような力で、人は外界の知識を得るのです。心は、すべての感覚的認識に欠くことのできない要素です。そこに自己が存在し、感覚器官もその対象も存在しても、心がそこに無ければ認識は行われません。

　知識を得るためには、いくつかの方法があります。それらは①知覚（プラティヤクシャ）、② 推定（アヌマン）、③ 比較（ウパマン）、④ 証言、⑤ 仮定（アルタパッティ）、および、⑥無知覚（アヌパラディ）等です。

　ちょうどランプの光が物質的なものを見せるように、知識は、対象の性質を正しく伝えるものでなければなりません。そうでないと、知識がうそのものとなります。真の知識は実際的活動を成功に導きますが、正しくない知識は失敗と失望に終わります。

　心の知覚作用は知覚される対象が感覚器官を刺激することから起こります。知識は、感覚対象の接触つまり外界の対象と感覚と心の接触によって得られます。このテーブルの知覚は、私の眼の、テーブルと私の心との接触によって起こるものです。われわれの、外部の知識の器官は五つ、つまり眼、耳、皮膚、舌、および鼻です。心は、知覚のための内部の器官です。心が、認識の器官の助けによって色、音、触覚、味、および匂い等の物質的性質を知覚するのです。

　快苦、好き嫌い等の感情のような心の状態は、感覚器官の助けなしに、われわれによって直接に知覚されます。心は、あらゆる種類の知識において、中心の、かつ共通の器官によって働くのです。

　感覚器官の助けによる知覚は、それが誤りでないときには、真の認識の形と見なされます。並外れた知覚という種類があります。その中の一つは、直観的知覚（ヨガジャー）と呼ばれるものです。霊的に完成された人々の場合には直観的知識は自然なものとなります。このような人々は、瞑想の実習（ヨガ・アビヤーサ）によって心中に生まれたある超自然的な力をもっています。このような人はごくまれな存在です。

推定

　知覚のあとに推定が来ます。推定は理論的に考える、という過程です。推定によって一つの知識の次にまた別の知識が来ます。例えば、われわれは、山から煙が立っている、煙が出ているものは燃えているのだ、それだから山は燃えている、ということができます。ここでは、山に煙を見ることによって、山が燃えている、という知識を得るのです。われわれはすでに、煙と火との普遍的な関係を知っているからです。推定は、直接の知覚または観察によらず、徴候または推理を通じて知識を得る、という方法です。

比較

　これは、ある名前が、すでに自分になじみ深いあるもの、その性質を示す名と同じであるために得られる知識です。その中には、ある言葉とその意味との関係で得られる知識も含まれます。

　例えば、ガヴァヤ（野生の牛）をまだ知らない人が、森の住人から、それは牛に似た動物だ、と聞かされます。彼はそのあとで森に入り、そのような動物を見て、それをガヴァヤであると知ります。彼のガヴァヤの知識は比較から来たのです。それは、類似点を認めたことがもとになっています。

　もう一つの例、サクソフォンはどんな物であるか知らない人が、ある音楽家から、「それは，Ｕ字形をしたトランペットのような楽器である」、と聞かされます。後にサクソフォンを見て、彼は直ちに、それがサクソフォンであると理解するのです。比較というのがこの場合、言葉の意味、すなわち名前とそれらが示す対象との関係を知るための方法です。この場合、知識の基礎は知られるべき対象についてすでに与えられた説明と、そこに説明の中で引合いに出された、すでに自分がよく知っているものとの類似性を認めた、ということです。ある学者たちは、比較を、推理の一形態であると見ます。

証言

　これは、権威ある、つまり信用すべき人々の断言から得た、あるものの知識です。この断言は、真理を知り、かつ他者を導くために真理を語る人の口から出たものでなければなりません。人がそこから知識を得ることができるのは、彼がその宣言の意味を正しく解釈したときに限ります。ここでは、この知識の正当性は、信頼できる人の宣言に基づいている場合にのみ、認められます。またその知識の程度は、受ける人の、その宣言の理解の程度によるものです。

　科学者は、水は水素と酸素のある割合による化合物である、と言います。われわれはそのことを自ら証明したわけではなけれど、科学者の権威に依存して知っているのです。ここでは、知識は言葉で伝えられた証言に基づいています。シュリ・ラーマクリシュナは神は形があって同時に形がない、と教えておられます。神を悟っていないでも、われわれは神についてのこの知識を、信頼すべき宣言から得るのです。言葉を通じて得られる知識は、二種に大別されます。一つは知覚し得る対象に関するもの、もう一つは知覚できない対象に関するものです。第一の種類には、この世界の知覚できる事物の関する、普通の人々、聖者たちおよび聖典の、信用にあたいする言明が含まれます。第二の種類には、知覚を超えた真理に関する、普通の人々、聖者たち、予言者たち、および聖典の、信用に値する言明が含まれるでしょう。すなわち、原子や電子に関する科学者たちの言明、徳と悪徳、神についての聖典の記述、自由および永世等に関する予言者たちの教えです。すべての宗教の聖典の証言は、神の言葉ですから完全に間違いのないものとされています。

　仮定と知覚抜き、という二つの方法が他にありますが、ここでは論じません。

　ある信者が、神を知りたいと思います。修行を始める前に、神の存在について何かの証拠を得たいと思うでしょう。神の存在を証明する、ある議論があります。第一は原因論、第二はアドリシュタからの議論と呼ばれます。

原因論

　この世界の、すべての合成されたものは、必ず原因をもっています。それらは何かの結果であるのですから。テーブルは木材の結果である、という風に。すべてのこのようなものは結果である、ということは、第一に、それらは部分から成っている、ということを示し、第二にはそれらはつくられたものだ、ということを意味します。

　世界のすべての合成されたもの、たとえば山と海、太陽と月、星々と遊星は、何かの原因の結果であるに違いありません。それらは部分から成立ち、特定の寸法を持っているのですから。またこれらのものは複数の物質的原因が集まってできたものです。それゆえ、この結果を生ずべき知的な原因、すなわち行為者があるに違いありません。知的な原因の導きがなければ、これらのものの物質的原因は、それらをして特定の結果を生ぜしめるだけの秩序、方向、および統合を持つことはできないでありましょう。この知性ある原因は、手段としての物質の原因の、直接の知識を持っているにちがいありません。彼はある目的をとげようという願望と、その願望をとげるだけの意志の力を持っているにちがいありません。彼はまた全知であるに違いありません。その知性的原因は、神以外の何者でもないのです。

アドリシュタ論

　この世界では、ある人々は幸福、またある人々は不幸です。ある人々は賢く、ある人々は無知です。この違いを見て、人は尋ねるでしょう、「この世の生活における、このような違いの原因はどこにあるのだろうか。われわれは、そこに原因がない、ということはできません。それらは実際の出来事であり、あらゆる出来事は必ずそれの原因を持っているのですから。

　今生でわれわれに喜びと悲しみをもたらす原因は、今生または過去生のいつかにわれわれが行った行為です。われわれは、自分の善い、または悪い行為のゆえに楽しみ、または苦しむのです。個々の魂の生涯を支配するのは、カルマ（行為）の道徳律です。

　この道徳律は各人に、それ自らの行った善い、または悪い、正しい、または正しくない行為の果実を刈り取ることを要求します。普遍の原因結果の法則が、物質世界にも道徳世界にも、同じように適用されるのです。肉体の活動は肉体の変化を、そして心のはたらきは心の変化と傾向をもたらします。それと同じように、道徳的に善い、または悪い行為は褒賞または罰、幸福または不幸というような、善か悪の道徳的結果をもたらすのです。ですから、われわれの喜びも悲しみもわれわれ自身の行為によるものであります。

　次の問いは、どのようにして、われわれの道徳的行為がそんなに長い年月を経た後に結果を生むのか、というものです。われわれの喜びおよび悲しみの多くは、今生でなされた如何なる行為の結果であるとも考えられません。今生で行った行為の結果も、そこからすぐに生じるわけではなく、ある時を経た後に現れるのです。われわれの善行は、われわれの魂の中にプンニヤ（功徳、善根）と呼ばれる、ある効力を生み、悪行はパーパ（欠乏、悪根）と呼ばれる、ある欠乏状態を生むのだと言われています。このような功徳とその反対の欠乏状態とは、行為がやんでしまったあとにも長く存続します。この善根と悪根の蓄積が、われわれの今生の喜びと悲しみを生み出すのです。

　アドリシュタは知能を持たない原理であって、それ自身では適当な結果を生み出すことはできません。ふさわしい結果を生み出すためには、アドリシュタが、ある知能を持つ行為者によって導かれるのである、と論じられています。個別の自己は、アドリシュタを導くことも支配することもできません。彼らは自分たちのアドリシュタについて何も知らないからです。その上に、しばしば、アドリシュタは意志の支配を無視します。ですから、われわれのアドリシュタを導く知性あるものは、不滅の、遍在の、そして全知の神聖な存在、すなわち神なのであります。神がわれわれのアドリシュタを制御し、厳密にそれに従って、すべての喜びと悲しみを分配されるのです。われわれは自分の行為の果実を、楽しみと悩みという形で神から受けるのです。

　ハートも性格も清らかで、直接に神を見た聖者や予言者たちの権威ある断言は、神の存在のもう一つの証拠です。

　神の存在の確実な証拠は、神の直接の認識、すなわち直接経験です。推理の過程を通じて、われわれは彼の存在の概念を得ることはできます。しかし、実在の知識を得ることはできません。

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